幸せな瞬間に「いつか終わる」と思ってしまう
隣で笑っている彼を見て、幸せだと思う。
同時に、その幸せが怖い。
「この時間はいつか終わる」
「いつか振られるかもしれない」
「こんなに幸せなのは今だけだ」
——幸福の真っ只中にいるのに、頭の中ではすでに終わりをシミュレーションしている。
楽しいデートの帰り道、ふと現実に引き戻される。「これがあと何回続くかわからない」と思った瞬間、目の前の幸せが急に薄く見える。
幸せでいることが、こんなに疲れるとは思わなかった。
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幸せな瞬間に終わりを想像してしまうのは、悲観的な性格のせいではない。
これは心理的な防衛反応だ。
人は、高い場所から落ちるほど痛い。だから心は、高い場所に登ること自体を警戒する。幸せであればあるほど、失ったときのダメージが大きくなる。だから、幸せの最中に先回りして「終わり」を想定し、落差を小さくしようとする。
「いつか終わる」と思っておけば、本当に終わったとき「やっぱりね」で済む。期待しなければ、裏切られない。幸せを信じなければ、幸せを奪われたときの痛みが軽くなる。
これは、過去に何かを失った経験がある人に多い反応だ。一度でも「信じていたものが終わった」経験があると、心は同じ痛みを避けるために、幸せそのものを疑い始める。
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でも、この防衛には大きな代償がある。
「いつか終わる」と思いながら過ごす幸せは、半分しか味わえない。
目の前に彼がいる。笑っている。手をつないでいる。その瞬間は確かに存在している。なのに、心の半分はすでに「失った後」を生きている。
つまり、まだ起きていない喪失のために、今ある幸せを犠牲にしている。
終わるかもしれない。それは事実だ。どんな関係にも、終わる可能性はある。でも、終わる可能性があることと、今の幸せに浸ってはいけないことは、別の話だ。
いつか終わるからこそ、今この瞬間を丸ごと受け取る。その方が、終わったときの後悔も少ない。「幸せだったな」と思えるから。
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「いつか終わる」の声を完全に消すことはできない。消さなくていい。
でも次にその声が聞こえたとき、一つだけ付け加えてみてほしい。
「いつか終わるかもしれない。でも、今は幸せだ」
後半の一文を、声が消す前に心の中で唱える。
幸せを怖がらなくていい。幸せでいることに、許可はいらない。
今、隣にいる人がいて、今、笑えている。それだけで十分だ。