毎朝同じリップを塗ることにした理由
メイクポーチの中に、リップが何本も入っている。
どれも中途半端に使いかけで、朝になると「今日はどれにしよう」と迷う。結局、一番手前にあるものを適当に塗る。色を選んだわけでも、気分で決めたわけでもない。ただ「何かしら塗った」という作業をしただけ。
ある日、一本だけ残して他を全部ポーチから出してみた。
残したのは、ドラッグストアで時間をかけて選んだ一本。
塗ったときの自分の唇が好きだった。一番しっくりくる。
それから毎朝、この一本を塗ることにした。
✦ ✦ ✦
たかがリップ一本で何が変わるのか、と思うだろう。
変わったのは、メイクの仕上がりではなく、メイクをしているときの感覚だ。
適当に塗っていた頃は、リップを塗ることが「出かける前の処理」だった。歯磨きと同じ。やらないと困るからやる。そこにときめきはない。
でもお気に入りの一本を塗るとき、少しだけ違う。この色が好きだ、と思いながら塗る。鏡の中の唇を見て、悪くない、と思う。ほんの数秒。でもその数秒間、自分にときめいている。
毎朝、自分にときめく瞬間がある。
これは小さなことだけれど、積み重なると大きい。一日の始まりに「悪くない」と思えた自分は、その日一日を少しだけ堂々と過ごせる。
✦ ✦ ✦
「お気に入りの一本」を持つことのもう一つの効果がある。
迷いが消える。
毎朝「どれにしよう」と迷っていた時間がなくなる。迷いがなくなると、選択に自信が生まれる。「今日はこれ」と決まっている安心感。
小さなことだけれど、この「迷わずに選べる」という感覚は、他の場面にも影響する。
服を選ぶとき、ランチを決めるとき、予定を立てるとき。
一つの場面で迷いがなくなると、他の場面でも自分の選択を信じやすくなる。
お気に入りが一つあるだけで、自分の基準が一つ確立する。その基準が、他の選択にも波及していく。
✦ ✦ ✦
全部のコスメをお気に入りにする必要はない。
一つだけでいい。リップでなくてもいい。アイシャドウでも、ハンドクリームでも、香りのミストでもいい。
毎朝必ず使うものの中から、一つだけ「これが好きだ」と言い切れるものを決める。
そしてそれを使うとき、ほんの一瞬だけ「好きだな」と感じてみる。
その一瞬が、毎朝のルーティンの中に「ときめき」を一つ差し込んでくれる。
——明日の朝、メイクをしながら「好きだな」と思えるものが一つでもあったら、その日はもう、少しだけ自分のことが好きな一日だ。
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