「ありがとう」より「すみません」が先に出る
電車で席を譲られた。
「すみません」と言いながら座った。
ありがとう、と言えばよかった。でも口から出たのは、すみません、だった。
荷物を持ってもらったとき。
ドアを押さえてもらったとき。
「大丈夫?」と声をかけてもらったとき。
いつも「すみません」が先に出る。「ありがとう」は、その後についてくるか、出てこないまま終わる。
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「すみません」は何への謝罪か
「すみません」は謝罪の言葉だ。
席を譲られたとき、何かを謝る必要があるだろうか。助けてもらったとき、それは罪だろうか。
論理的に考えれば、謝罪は必要ない。それでも「すみません」が出るのは、「自分が何かをしてもらうことへの申し訳なさ」が、先に来るからだ。
誰かの手を煩わせた。誰かの時間を使わせた。誰かの好意を受け取ってしまった。そのことへの、罪悪感に近い感覚が、「すみません」になって出てくる。
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「ありがとう」と「すみません」が映すもの
「ありがとう」は、好意を受け取ったことへの感謝だ。
「すみません」は、好意を受け取ってしまったことへの謝罪だ。
この二つの言葉の違いは、小さいようで大きい。「ありがとう」を言える人は、「自分がこれを受け取っていい」という前提がある。
「すみません」が先に出る人は、「自分がこれを受け取っていいのかどうか」がまだ決まっていない。
どちらが正しいかではない。ただ、口癖になった言葉は、自分への評価を静かに映している。
「すみません」が先に出るとき、あなたは自分の価値を少し低く見積もっている。
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感謝は、対等な関係から生まれる
「ありがとう」は、対等な立場から言える言葉だ。
あなたが何かをしてもらった。相手はそれをしたかったから、した。あなたはそれを受け取った。それで完結する。そこに上下はない。
「すみません」が先に出るとき、その関係に上下が生まれている。してもらった自分が、下になる。迷惑をかけた側になる。その感覚が、謝罪を先に出させる。
でも好意は、迷惑じゃない。
相手が差し出したものを受け取ることは、罪じゃない。
「ありがとう」と言うことは、「あなたの好意を、私は対等に受け取りました」という返事だ。
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今日、「すみません」の前に「ありがとう」を置く
大きく変わらなくていい。
今日、誰かに何かをしてもらったとき、「すみません」より先に「ありがとう」を言ってみてほしい。
「ありがとうございます、助かりました」——それだけでいい。
最初は少し、むず痒い感じがするかもしれない。「ありがとう」と言い切ることに、どこか恥ずかしさがあるかもしれない。
それでいい。その感覚ごと、「ありがとう」と言う。
受け取ることへの練習は、言葉の順番を変えることから始められる。
次に誰かに何かをしてもらったとき、「すみません」の代わりに「ありがとう」を置いてみてほしい。それだけで、何かが少し変わる。