好きな飲み物を一つ決めている
カフェのカウンターで、メニューを見上げる。
ラテもいいし、カプチーノもいいし、紅茶もいい。迷っているうちに後ろに人が並び始めて、焦って「ブレンドで」と言う。
別にブレンドが好きなわけではない。一番無難で、一番早く言えて、一番間違いがないから選んだだけだ。
ある日、「私の好きな飲み物って何だろう」と考えてみた。答えが出なかった。好きなものがないのではなく、好きかどうかを考えたことがなかった。
✦ ✦ ✦
一週間かけて、いろいろ試してみた。
カフェラテ。チャイ。ほうじ茶ラテ。抹茶。ジンジャーエール。レモネード。——毎日違うものを頼んで、飲むたびに自分に聞いた。「これ、好き?」
結果、一つ見つかった。ほうじ茶ラテ。香ばしくて、甘すぎなくて、温かい。「これが好き」と、はっきり思えた。
それからカフェに行くと、迷わなくなった。「ほうじ茶ラテをお願いします」。メニューを見上げなくても言える。後ろの行列も気にならない。
たかが飲み物だ。でも、「迷わずに選べるもの」が一つあるだけで、自分に対する信頼感が変わる。
✦ ✦ ✦
「いつもの」を持つことの力は、迷いがなくなることだけではない。
自分の好みを知っている、という感覚そのものが力になる。
「何が好き?」と聞かれて答えられるものが一つでもあると、自分の輪郭がはっきりする。「私はほうじ茶ラテが好きな人だ」——些細な情報だけれど、自分を構成するパーツが一つ増える。
そのパーツが増えるたびに、「何もない私」という感覚が薄れていく。
特別なことは何もない。
でも、好きな飲み物がある。
好きなリップの色がある。
好きなハンカチがある。小さな「好き」の集合が、自分という人間を形作っている。
「何もない」と思っていた自分の中に、実はたくさんの「好き」があった。ただ、それを探す習慣がなかっただけだ。
✦ ✦ ✦
今週、カフェやコンビニで飲み物を買うとき、一つだけ試してみてほしい。
「いつもの」を頼む前に、「本当にこれが好き?」と自分に聞いてみる。
好きだと思えたら、胸を張ってそれを頼む。「いつもの」が自分の意志で選んだ「いつもの」に変わる。
もし「実はそうでもないかも」と思ったら、今日は違うものを試してみる。
どちらにしても、自分の感覚に従って選んだという事実が残る。
——「いつもの」を笑顔で頼める自分は、小さな自分基準を一つ持っている自分だ。
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