美容院でいつもと違うことを頼んだら、別人みたいだった
美容院では、いつも「お任せで」と言っていた。
2ヶ月に一度、同じ美容院で、なんとなく同じような髪型にしてもらう。本当はもう少しこうしたい、という気持ちがないわけじゃない。でも、それを言葉にするのが面倒で、間違っていたら恥ずかしくて、結局「いつもと同じ感じで」と言ってしまう。
担当の美容師さんとの会話も、少し苦手だった。だから、希望を伝えるより、お任せにして黙っているほうが、楽だった。
ある日、なんとなく、雑誌で見た髪型の写真を、スマホに保存していた。それを、勇気を出して見せてみた。「こういう感じ、できますか?」
美容師さんは「いいですね、似合うと思います」と言って、その通りに仕上げてくれた。
鏡の中の自分は、いつもと、少し違った。別人みたい、というほどじゃない。でも、確かに「自分で選んだ私」が、そこにいた。
「お任せ」は、楽だけど、自分がいない
「お任せで」という言葉は、便利だ。
考えなくていい。失敗の責任を負わなくていい。プロが選んでくれるんだから、間違いない。だから、つい「お任せ」を選んでしまう。
でも、よく考えてみてほしい。「お任せ」を選ぶとき、あなたはそこに、いない。
自分がどうなりたいか、を考えるのを放棄して、決定を相手に渡している。仕上がりが微妙でも、「お任せしたんだから」と諦める。本当はもう少しこうしたかった、という気持ちは、口にされないまま消えていく。
これは、「何食べたい?」に「何でもいいよ」と答えてしまうあなたと、同じだ。自分の希望を言葉にすることを避けて、決定権を手放している。優しさや謙虚さに見えて、その正体は、「自分の希望なんて、主張するほどのものじゃない」という、自己評価の低さだ。
「お任せ」が悪いわけじゃない。本当にお任せしたい日もある。でも、いつも「お任せ」なら、あなたの髪型には、あなたの意思が、ずっと反映されていないことになる。
「こうしたい」を口にする練習
雑誌の写真を見せて、「こういう感じ」と伝えたあの瞬間、あなたは小さな冒険をしていた。
自分の「こうしたい」を、言葉にして、相手に差し出す。それは、間違っているかもしれない。似合わないかもしれない。恥ずかしいかもしれない。それでも、口にしてみた。
これは、髪型の話を超えた、大切な練習だ。自分の希望を、ちゃんと言葉にして、外に出すこと。それを、あなたは長いこと、避けてきた。
美容院は、その練習にちょうどいい場所だ。相手はプロで、あなたの希望を聞くのが仕事。多少無理な注文でも、「それは難しいですね」と教えてくれる。安心して、「こうしたい」を口にできる。
そして、自分の希望を伝えて、その通りに仕上がった髪型を見たとき、あなたは気づく。「自分で選んだ私」は、「お任せした私」より、ずっと愛おしい。たとえ少し似合っていなくても、そこには、自分の意思が宿っている。
小さな「こうしたい」を口にできるようになると、それは美容院の外にも広がっていく。仕事でも、人間関係でも、恋愛でも。自分の希望を、少しずつ、言葉にできるようになる。その出発点が、美容院の鏡の前に、あったりする。
✦ ✦ ✦
次に美容院に行くとき。
「お任せで」と言いそうになったら、ほんの少しだけ、立ち止まってみる。
本当は、どうしたいだろうか。
少し明るくしたい。前髪を変えてみたい。あの人みたいな雰囲気にしてみたい。どんな小さな希望でもいい。それを、言葉にして、伝えてみる。雑誌の写真でも、スマホに保存した画像でもいい。
「こういう感じ、できますか?」
その一言を口にできたら、もう半分成功している。仕上がりがどうであれ、あなたはその日、「自分の希望を言葉にした」という経験を持ち帰る。
鏡の中にいるのは、誰かに任せた自分じゃない。自分で選んだ、自分だ。その姿に、ほんの少しときめけたら、それがあなたの、いちばんの収穫だ。
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