「美人」と「美しい人」は、たぶん違う
友達の一言が、妙に腑に落ちた夜
共通の知人の話をしていたときだった。友達がふと言った。
「あの人さ、美人ってタイプじゃないけど、美しい人だよね」
あなたは一瞬で理解した。そうそう、そういう感じ、と。説明はいらなかった。そして帰り道で気づく。いま私たちは、「美人」と「美しい人」を、当たり前のように別の言葉として使った。
辞書の上では、ほとんど同じ意味のはずなのに。
二つの言葉は、測っているものが違う
「美人」は、静止画の言葉だ。顔の造形、パーツの配置、写真一枚で判定できるもの。だから「美人かどうか」は初対面の三秒で決まるし、本人が眠っていても判定できる。
「美しい人」は、動画の言葉だ。話し方、間の取り方、人への接し方、機嫌の佇まい。写真一枚では判定できない。しばらく一緒に過ごして、初めて「この人は美しい人だ」とわかる。本人が眠っていたら、判定のしようがない。
あなたの中で、この二つはすでに別の棚に入っている。「美人だけど、なんか感じ悪い人」も「美人じゃないけど、美しい人」も、あなたの言語の中では普通に成立する。つまりあなたは、顔の点数と美しさが別物であることを、本当はもう知っている。
片方は配られ、もう片方は育つ
「美人」は配られるものだ。生まれたときの、いわばくじ引き。本人の選択も努力も関係ないところで決まっていて、だからこそ、そこで競っても仕方がない。くじの結果を眺めて落ち込むのは、終わった抽選会の会場に通い続けるようなものだ。
「美しい人」は育つものだ。自分をどう扱うか、人をどう扱うか、機嫌をどう整えるか。その積み重ねが佇まいになり、空気になる。配られた手札とはほとんど関係のない場所で、時間をかけて育っていく。
ここで注意したいことがある。これは「だから美しい人になる努力をしましょう」という話ではない。それでは新しい競争が始まるだけだ。そうではなくて、あなたが落ち込んでいる場所と、あなたが育てられる場所は、違う場所にあるという事実の話をしている。
あなたはどちらの審査を受けてきたか
鏡の前で落ち込むとき、あなたが受けているのは「美人」の審査だ。目の大きさ、鼻の高さ、輪郭。配られたくじの審査。
でも思い出してほしい。あなたが誰かを「美しい人だな」と思うとき、その審査基準を相手に当てはめたことが、一度でもあっただろうか。あの人は目が大きいから美しい、と思ったことが。
ないはずだ。あなたが人に向ける目は、いつだって「美しい人」の方を見ている。なのに自分にだけ「美人」の審査を課して、くじの結果に通知表をつけ続けている。
その審査、誰に頼まれたものだったか。
✦ ✦ ✦
言葉をひとつ、選び直す
「美人」は配られるもの。「美しい人」は育つもの。あなたが手を入れられるのは、後者だけだ。そして人があなたを覚えるのも、後者の方だ。
今夜、ひとつだけやってみてほしいことがある。あなたが「美しい人だな」と思う人を、一人思い浮かべる。そして、その理由を一行だけ言葉にしてみる。
たぶんその一行に、顔の話は出てこない。出てきたその一行が、あなたがこれから育てていけるものの名前だ。
くじ引きの会場からは、もう帰っていい。
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