彼の機嫌で自分の一日が決まっていた
朝、彼からのLINEのトーンを確認する。
絵文字があれば今日は大丈夫。
素っ気なければ何か怒っているのかもしれない。
会ったときの第一声が明るければほっとする。
無言でスマホをいじっていれば、「何かしただろうか」と胸がざわつく。
いつからだろう。自分の一日の天気が、彼の機嫌で決まるようになったのは。
彼が笑えば晴れ。彼が黙れば曇り。彼が不機嫌なら、もう嵐だ。
自分の感情なのに、リモコンが相手の手にある。そんな感覚を、ずっと抱えていないだろうか。
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「相手の気持ちに敏感なだけだ」と思うかもしれない。
たしかに、相手の表情や声のトーンから感情を読み取れるのは、一つの能力だ。でも問題は感度の高さではなく、読み取った後の処理にある。
彼が不機嫌だと感じたとき、あなたの頭の中ではこういうプロセスが走っている。
「彼が不機嫌だ」→「私のせいかもしれない」→「私が何とかしなきゃ」→「機嫌を直せなかったら嫌われる」
この連鎖の中に、一つだけ飛躍がある。最初の矢印だ。「彼が不機嫌だ」と「私のせいかもしれない」の間には、本来は何の因果関係もない。仕事で嫌なことがあったのかもしれない。体調が悪いのかもしれない。ただ眠いだけかもしれない。
でも、あなたはまず「自分のせい」を疑う。
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なぜ「自分のせい」が最初に来るのか。
それは、相手の感情の責任を自分が引き受ける癖がついているからだ。
この癖は恋愛で突然生まれたものではない。 おそらくもっと前から——親の機嫌を読んで行動していた子どもの頃、先生の顔色で自分の振る舞いを変えていた学生時代、上司の声のトーンで一日の過ごし方を決めていた社会人生活の中で、少しずつ身についたものだ。
相手の感情に自分を合わせることで、場を安定させてきた。それは生存戦略であり、あなたの優しさでもあった。
でも、恋愛の中でそれを続けると、一つの重大な問題が起きる。
自分の感情がわからなくなる。
彼が楽しそうなとき、自分も楽しいのか。それとも「彼が楽しそうだから安心しているだけ」なのか。その区別がつかなくなる。
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彼の機嫌は、彼のものだ。あなたのものではない。
これは冷たい言葉ではない。むしろ、あなたを解放する言葉だ。
彼が不機嫌でも、あなたは自分の一日を楽しんでいい。彼が黙っていても、あなたは自分の機嫌を自分でとっていい。相手の天気と、自分の天気は別々でいい。
今日、一つだけ意識してみてほしいことがある。
彼の表情を読む前に、自分の気分を確認する。「今、私は何を感じているだろう」と、ほんの一瞬だけ自分に聞く。
その一瞬が、感情のリモコンを自分の手に戻す練習になる。