好きな人ができると趣味が手につかなくなる
毎週末通っていたヨガ教室に行かなくなった。
買ったばかりの小説が、しおりを挟んだまま一ヶ月放置されている。
録画したドラマも、編みかけのマフラーも、始めたばかりの料理の勉強も、全部そのまま。
理由はわかっている。好きな人ができたからだ。
彼からの連絡を待つ時間。デートの計画を考える時間。彼のSNSをチェックする時間。会っていないときも彼のことを考えている時間。気がつけば、自分のための時間がすべて「彼に関する時間」に置き換わっていた。
✦ ✦ ✦
恋をしたら多少は趣味が疎かになる。それは自然なことだ。
問題は、趣味が「疎かになる」のか、それとも「消滅する」のかの違いにある。
前者は、バランスの話だ。彼との時間が増えた分、趣味の時間が少し減る。でも自分の世界は残っている。
後者は、構造の話だ。彼の世界が自分の世界を飲み込んでしまう。趣味が「しなくなる」のではなく、「する気がなくなる」。自分のために何かをすることへの動機そのものが消えてしまう。
もし後者に心当たりがあるなら、起きていることは明確だ。
自分の世界の所有権を、恋愛に明け渡している。
✦ ✦ ✦
なぜ、自分の世界を手放してしまうのか。
それは「自分の世界」に対する信頼が低いからだ。
自分の趣味なんて大したことない。自分が楽しいと思うことなんて価値がない。彼との時間の方がよほど意味がある。——そういう無意識の優先順位が、自分の世界を後回しにさせる。
でも考えてみてほしい。
彼があなたに惹かれたのは、あなたが「何もない人」だったからではない。自分の好きなことがあって、自分の時間を過ごしていて、自分の世界を持っていた——そのあなたに惹かれたはずだ。
その世界を手放すということは、彼が好きになった「あなた」を自分から消しているということでもある。
✦ ✦ ✦
趣味を復活させるのに、大きな決意は要らない。
今日、一つだけやってみてほしい。彼のことを考える前に、自分が好きだったことを一つだけする。五分でいい。
放置していた小説を一ページだけ読む。
編みかけのマフラーを三段だけ編む。
好きだった曲を一曲だけ聴く。
その五分間は、彼のための時間ではない。あなたのための時間だ。
自分の世界は、手放さなくていい。恋愛と両立できないほど弱いものではないはずだ。