一行だけ日記を書いている
日記は何度も挫折してきた。
新しいノートを買う。初日はやる気に満ちて一ページびっしり書く。二日目も半ページ書く。三日目は三行。四日目は書かない。五日目以降、ノートは引き出しの奥に消える。
日記は私に向いていない。何度もそう結論づけてきた。
でもある日、ルールを一つだけ変えてみた。
一行だけ書く。
一行でいい。一文でいい。単語でもいい。今日感じたことを、何でもいいから一つだけ書く。
それなら、続いた。
✦ ✦ ✦
一行日記を始めて気づいたのは、自分が毎日何を感じているか、自分でわかっていなかったということだ。
「今日、何を感じた?」と自分に聞く。
すぐに答えが出ない。
仕事をして、ごはんを食べて、帰ってきた。
でも「感じたこと」となると、言葉にならない。
最初の頃は、こんなことを書いていた。
「疲れた」
「眠い」
「普通の一日だった」
感覚の解像度が低い。でも続けているうちに、少しずつ言葉が変わってきた。
「帰り道の空がきれいだった」
「ランチのパスタが美味しかった」
「同僚の一言がちょっと嬉しかった」
同じ「普通の一日」でも、一行書こうとすると、何か一つ、心が動いた瞬間を探すようになる。その「探す」行為自体が、自分の感覚にアンテナを立てることになる。
✦ ✦ ✦
一行日記が自己肯定感と何の関係があるのか。
自分の感覚を言葉にできる人は、自分の輪郭を持っている人だ。
「好き」を「好き」と言える。
「嫌だ」を「嫌だ」と言える。
「嬉しい」を「嬉しい」と言える。
それは当たり前のことのようで、練習しないとできない。
ずっと他人に合わせてきた人は、自分の感覚を言語化する機会が少ない。
「何でもいいよ」で済ませてきたから、「何がいい」がわからない。
「私は今、何を感じているか」を自分に聞く癖がない。
一行日記は、その練習になる。
毎晩一行、自分の感覚を言葉にする。それだけで、自分の中に「私はこう感じる人間だ」という輪郭が少しずつ刻まれていく。
✦ ✦ ✦
書くものは何でもいい。ノートでも、スマホのメモでも、手帳の隅でもいい。
ルールは一つだけ。一行以上書かなくていい。
書きたければ書いてもいい。でも「一行でいい」と決めておくことで、「今日はたくさん書かなきゃ」というプレッシャーがなくなる。プレッシャーがないから、続く。
今夜、寝る前に一行だけ書いてみてほしい。
「今日、心が少しでも動いた瞬間は何だったか」
答えは何でもいい。「特になし」でもいい。それも立派な一行だ。
一週間続けたとき、七行の中に「自分」が見えてくるはずだ。
——その七行を読み返したとき、「こういうことで心が動く人間なんだな、私は」と思えたら、それはもう自分を少しだけ知り始めている証拠だ。
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